大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和27年(行)13号 判決

原告 岡田市蔵

被告 鳥取県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨と原因

原告訴訟代理人等は、「被告が原告に対し昭和二七年七月八日発管第三〇九号を以てした換地予定地指定処分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その原因として左のとおり述べた。

(一)  原告は鳥取市吉方二八〇番宅地二四七坪四五、同所二八〇番の一田地二一〇坪、同所二八一番の一田地三三九坪、同所二八一番の二宅地一一八坪三〇、合計九一四坪七五の所有者であるが、右土地は鳥取火災による鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理地区に属し、昭和二七年七月八日発管第三〇九号を以て、右土地区画整理施行者である被告鳥取県知事から別紙図面のとおり、換地予定地の指定処分をうけたものである。これによると、原告の前記土地に対する換地は合計四八五坪六八であつて、従前の土地に比して、四割六分弱の減歩となつているのである。

(二)  しかし、鳥取火災復興土地区画整理における減歩率は一割以上三割であつて、平均約一割五分であることは、換地方針として一般に指示されたところであるから、前記のような高率な減歩は違法である。

(三)  また、右換地予定地指定処分によつて、従前の土地のうち国道十八号線に面する部分は、全部使用収益できなくなつたので利用価値が著しく減少した。かような換地予定地指定処分は違法である。

(四)  つぎに被告は原告の従前の土地に、いわゆる替費地を設定して原告の土地を収奪した。すなわち、替費地は区画整理上余剰土地を生じた場合にこれを設定し、これによつて区画整理施行費用を捻出しようとするものであるに拘らず、右土地は原告の必要土地に設定したものであるから違法である。

(五)  よつて、右換地予定地指定処分の取消を求めるため本訴におよんだ次第である。

第二、被告の主張

被告訴訟代理人等は主文同旨の判決を求め、左のとおり答弁した。

(一)  原告請求原因(一)項の事実、ならびに、被告が原告の従前の土地の一部を替費地に設定したことは認めるが、その余の主張は否認する。

(二)  本件換地予定地指定処分の経過、ならびに、方針はつぎのとおりである。本件土地(従前の土地)は、昭和一三年四月二五日、内務省告示第二三二号により、訴外鳥取市が内務大臣から鳥取都市計画事業駅前土地区画整理の施行を命ぜられた際、右区画整理施行区域に属していたものであつて、昭和一六年九月九日、鳥取市長において、本件土地の換地予定地として、四三七坪五九を従前の土地の上に指定したものである。(別紙図面参照)そうして、右駅前土地区画整理は、昭和一八年三月三一日を以て完了すべく命じられていたのであるが、戦争の影響ならびに、戦後の諸般の事情から右区画整理事業は、ほとんど停滞し、昭和二二年中に政府から事業年度執行延長の認可をうけていたものである。しかるところ、昭和二七年四月一七日、鳥取市火災による鳥取火災復興土地区画整理を鳥取都市計画事業として被告県が施行することになつたため、その際、同年五月二日建設省鳥都第一六号を以て建設大臣から被告に対し、前記駅前土地区画整理事業をもこれを承継して併せて行うべき旨を命ぜられたものである。したがつて、従前の鳥取市長のした処分はすべて有効なものとして被告において引継いだものである。そうして、鳥取市長が前記の換地予定地指定処分をした当時は原告の換地予定地に隣接する宮長線道路の設計計画は幅員一五メートルとなつていたのであるが、被告において右設計計画を一部変更し幅員一一メートルとしたため、余剰の公共用地が生じ、被告はこれを原告に追加交付する趣旨において、旧換地予定地指定処分を変更する本件指定処分を行つたものである。もつとも、旧換地予定地のうち、北側の一部は本件換地予定地から除外し、これを賛費地としたが、その反面南側の旧賛費地を原告の換地予定地としてあり、従つて旧換地予定地が減歩率五割二歩八厘であるのに対し、本件処分によつて減歩率は四割六歩弱となつて、その坪数は増加しているものである。かように原告の利益となる被告の本件換地予定地指定処分は何等違法でないばかりでなく、原告は鳥取市長のした旧換地予定地指定処分に対し、何等の異議の申立をしないで一〇数年経過したのであるから、右処分は一応確定し、右処分の一部を修正したに過ぎない本件処分には不服の申立はできないものである。

(三)  つぎに、換地の指定については、従前の土地の位置、地目、地積、等位、評定価格、利用状況等を標準として交付するのであるが、本件処分は駅前土地区画整理において、土地区画整理施行による土地の評価増と、従前の土地の評価との比率から換地の地積を定める評価主義を採用した結果、また、宮長線道路新設のために要する相当地積の公共用地を必要とするので、四割六分の減歩となつたのである。原告のいう減歩率一割乃至三割というのは駅前土地区画整理施行地域以外の地域についての標準であつて、本件には関係がない。その上、原告は以上のような減歩をうけても、原告の従前の土地は国道一八号線にも面してなく、また、公道にも通ぜず、しかもその二分の一は低湿な水田であつたものが、駅前土地区画整理、およびこれを承継した鳥取火災復興土地区劃整理により、換地予定地は、前記新設の宮長線道路に面し、都心との交通が開け、人家は密集し、土地の利用増大して地価は急激に上昇したのである。したがつて、原告はこれにより多大の利益をうけているのであつて、本件処分の減歩率のみを見てこれを違法というは失当である。なお、本件土地の隣地である訴外日産自動車会社の換地予定地の減歩状況を見ても、従前の土地九一四坪に対し換地予定地四六六坪二〇減歩率四割九歩であつて、原告に対してのみ著しい減歩をしたものではない。

(四)  つぎに原告は、その従前の土地を替費地にしたのは違法であるというが、替費地は土地区画整理地区内土地所有者全般の所有地を減歩したことによつて、生じた残余土地から替費地を設定したもので、たまたま、原告の従前の土地が替費地となつたとしても、原告の土地を収奪したものではないから、これによつて本件処分が違法となることはない。

第三、右(二)、(三)項に対する原告の答弁

鳥取市が駅前土地区画整理を施行し、これを被告が承継したものであること、ならびに、被告主張のような換地方針であることは認めるがその余の事実は否認する、原告は鳥取市長の換地予定地指定処分に対しては書面、または、口頭で異議の申立をしておりまた、原告は国道一八号線に面する土地を取られた結果、奥の土地を換地されても何等土地価格は増加しない。

第四、(証拠省略)

理由

原告がその主張に係る土地四筆、合計坪数九一四坪七五の所有者であること、被告が鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行者として、右土地に対して昭和二七年七月八日、原告主張のような換地予定地指定処分をしたこと、また、右土地は、昭和一三年四月二五日、内務省告示第二三二号によつて、鳥取市の施行する鳥取都市計画事業駅前土地区画整理の施行区域に属するものであるが、昭和二七年五月二日、これを被告において承継し、鳥取火災復興土地区画整理に併せて施行するに至つたものであることは、いずれも当事者間に争がない。そうして、成立に争ない甲第四号証と証人松村正、中西成城の証言と原告本人尋問(一部)の結果によると、本件土地に対しては、訴外鳥取市長が、駅前土地区画整理の施行として昭和一六年九月九日頃別紙図面のとおり合計四三七坪五九の換地予定を指定したのであるが、昭和一八年の鳥取地震、および、戦時中、戦後の諸般の事情のため、右区画整理事業の進行はほとんど停滞し、換地処分まで移行することなく、昭和二七年五月、被告において、これを承継し施行するに至つたものであることと、被告は右土地区画整理を承継後、新設計画の宮長線道路の幅員を二〇メートルから一一メートルに設計変更し、ために、余剰の公共用地を生じたので、これを原告に追加交付することとし、併せて地形をも別紙図面のとおり一部修正して、原告に対して換地予定地指定通知を発したものであることを認めることができる。

そこでまづ、原告は本件処分には不当、過大な減歩をした違法があると主張するから、これを検討することとする。(被告は、本件処分は前記のように鳥取市長のした処分を、被告において、地積を増加して修正したものにすぎないから、基本となる鳥取市長の処分に対し、原告が異議その他の不服手続をなすことなく一〇数年を徒過したものである以上、本件において基本処分を攻撃する減歩の違法を主張をすることは許されないと主張するが、換地予定地指定は、本換地処分がなされるまでに、それ自体において確定する性格を持つ独立の処分ではないから、従前の処分につき訴を提記することなく徒過し、しかも徒過した期間が相当長期であつたとしても、本件の如く、従前の処分と同一性を維持する関係に立つ換地予定地指定の修正、変更処分がなされた際にも、あらためて換地予定地指定処分の全般的な実体的かしを主張して処分の取消を求めることができると解すべきである。被告の右主張は採用しない。)さて、本件処分によつて原告が四割六分弱の減歩をうけたことは当事者間に争ないところであるが、証人松村正、中西成城の証言、鑑定人東後琢三郎、芦村利治の鑑定書、および検証の結果を綜合すると本件土地一帯は従前は水田であつて、(原告の土地のうち宅地の部分は、昭和一二年頃田から地目換したものである。)公道に接しない交通の極めて不便かつ将来の発展性が全く考えられない地域であつたが、これを市街地に発展させ住宅地化するため、昭和一三年頃から鳥取都市計画事業駅前土地区画整理が施行されたものであつて、されば、従来公道等公共用地の全く存在しない地帯に公道として宮長線道路を新設するため、これに相当する地積の公共用地を必要とし、したがつて、右公共用地を捻出した上、土地所有者に現地換地をなすには、本件の如く、従前の土地から四割強の減歩を施すことを余儀なくせられた事情を認めることができるのである。しかしながら反面前記各鑑定書によれば、宮長線道路の新設によつて、右道路は国道一八号線と永楽通りに連絡し、原告の換地予定地は直接宮長線道路に面して、交通極めて便利となり、しかも附近一帯ならびに本件土地は宅地化されて土地の利用度は増加し、土地評価価格も急激に上昇し、換地予定地の地価は従前の土地全部の換算評価価格と比較してすでに倍増している事実を認めることができるのである。右認定に反する証人岡田潤一、原告本人の各供述部分は信用できない。

以上の事実によれば、換地予定地の減歩率が四割六分であつたとしても、右都市計画事業の特殊性からやむを得ないものであり、しかも被告のした本件処分による利益は、減歩の損失を償うて余りあるものと認められるから、右は都市計画法第一二条によつて準用される耕地整理法第三〇条の被告に許容された裁量範囲内の処分であるというべく、違法ということはできない。原告の主張に係る、鳥取市の減歩率が一割以上三割、平均一割五分であるということは、前記証人等の証言と成立に争ない甲第二号証によれば、これは駅前土地区画整理地域に属しない市街地の火災復興土地区画整理についての一般的準則であつて本件には適用されないものであること、却つて、原告の隣接地である日産自動車株式会社所有地の減歩率も四割九分であることが認められるから原告のみが過大な減歩を蒙つたということにもならない。減歩についての原告の主張は理由がない。

つぎに、原告は、従前の土地のうち、国道一八号線に面する部分を換地予定地から除外されたので、利用上著しい不利益を蒙つたと主張する。本件が現地換地であることは、さきに述べたとおりであるが、成立に争ない甲第三号証と検証の結果によれば従前の土地は国道一八号線に平行して存在していた土地でもなく、また、同国道に接していたものでもない事実が認められるし、しかも、宮長線が完成して後も、原告が国道一八号線側に近い従前の土地部分を必要とし、これを換地としてうけられないことによる利用上の著しい不利益があるとの特段の事情は何等立証されないから、右主張も理由がない。

また、原告の従前の土地に替費地を設定したのは違法であると主張するが、換地予定地が換地として確定したとき、従前の土地のうち換地として交付されない部分については、これに対し原告は所有権を失うこととなるのであるから原告が所有権を失つた後において、被告が公共用地となるべき従前の土地の一部を替費地に設定したとしても、原告の所有権を侵奪したということにはならず、また原告等土地所有者その他が負担すべき土地区画整理施行の費用の徴収に代えて、被告がその定めるところにより替費地を設定、これを処分し、よつて右費用に充当して、土地所有者等の直接の費用負担の軽減を図るということも違法とはいい難いから、主張自体理由がない。

以上証明したとおり、原告の主張はすべて失当である。よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小竹正 藤原吉備彦 秋山哲一)

(図面省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例